もと弦理論(string theory)研究者からの弦理論批判

ラジオ番組KQED Forum(サンフランシスコ制作)の2006年9月28日の放送に、理論物理学者のリー・スモーリン(Lee Smolin)が出演し弦理論(string theory)への批判を展開していた。以下で聞くことができる。
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番組の内容は、スモーリンが最近出版した「The Trouble with Physics」と題する本の内容に沿っている。

スモーリンは過去に弦理論の論文を18本書いているが、現在は弦理論に懐疑的である。弦理論が主流である理論物理学は危機にある考えている。

  • 理論物理学の体系は2つに分けられる。1つはライプニッツアインシュタインを代表とする、時間と空間は相互に依存しており独立して存在しないとする体系である。もう1つはニュートン素粒子論、量子論がよって立つ、空間を固定的な背景として扱う体系である。弦理論は後者に属する。
  • 一般に科学の理論は、それに基づいた予想が実験で検証されれば確立し、反証されれば棄却される。これを反証可能性(falsifiability)と言う。弦理論は登場した当初は実験により検証可能であると期待されたが、現在に至るまで実験による検証は行えていない。
  • 1970年代中盤に素粒子物理学(particle physics)の標準模型(standard model)が確立して以来30年間、検証された新たな理論・知識は増えていない。ニュートリノに質量があることが分かったので、標準模型は修正する必要はあるが。
  • 理論物理学の研究では弦理論が主流であり、合衆国において特に顕著である。弦理論偏重が理論物理学停滞の原因であるのか、結果であるのかは、歴史の審判を待たなければならない。
  • 弦理論の研究者は他の理論に興味を持たず他の理論の研究者と交流もない。社会学的に見て、この状態は重大な誤り・見落としを起こしやすい。「The Trouble with Physics」では物理学の現状に対して社会学的な考察を加えている。賢くやる気に満ちた人々が内輪でばかり話をしている場合に、重大な誤り・見落としを起こすのはよく知られており、以下の事例がある。
    • 合衆国の自動車デザイナーが売れないデザインばかりを出していた
    • 諜報機関によるピッグズ湾作戦の失敗
    • 諜報機関ソ連の崩壊を予想できなかった
  • 弦理論の検証には銀河系くらいの大きさの加速器が必要と言われてきた。そのため弦理論は実験による検証が原理的に不可能だとされてきた。これに対してGiovanni Amelino-Cameliaは宇宙全体を実験装置と捉える方法を考案した。100億年もの旅を経て地球にたどり着いた光や宇宙線を調べることで、宇宙にある量子的構造を調べるのである。量子的構造による影響が非常に小さなものであっても、長い旅の間に積み重なるからである。合衆国の物理学界が健全であればdoubly-special relativity*1を唱えたAmelino-Cameliaはもっと注目されるはずである。
  • 弦理論は余剰次元(extra dimension)を必要とする。余剰次元を使って物理理論を統一する試みは1914年以来何度も提唱され、失敗の連続だった。そういう歴史を知る人は、余剰次元を必要とする弦理論は「またか」と感じる。アインシュタインは最初、余剰次元を有望と感じたが1923年に棄却している。なぜなら、余剰次元に依存する素粒子は安定せず、それは実験と一致しないからである。素粒子が巨大になりブラックホールになることも導かれるが、それは観測されていない。
  • 弦理論の枠組みで多数の理論が構成でき、どんな実験結果に対しても、それに合う理論が構成できる。これで反証可能性(falsifiability)を持つと言えるのか。

*1:決まった日本語訳は見当たらなかった。たとえば「重特殊相対論」か。