極限的な子育て

ラジオ番組This American Life2006年9月15日放送分は、極限的な子育てについてだった。題名は「Unconditional Love」である。その回のウェブページで番組のストリーミングを聞くことができる。MP3ファイルのダウンロードも一応可能で、その方法については、この記事の最後に記した。

番組の内容の概要

20世紀前半の合衆国では愛情は子育てに有害と考えられていた

番組ではまず、20世紀初頭から1960年ころまで、愛情は子育てに禁物であると合衆国の心理学者や小児科医が考えていたことを紹介している。その誤りを科学的に証明するためにサルを使った研究が行われた。
20世紀初頭の心理学はまだ未熟で、愛情を測定することができなかった。また、感染に関する知識も不十分だった。看護士によく世話をされる赤ん坊ほど感染症に罹患するすることが多いことから、子供への接触は少ないほどよい、愛情をかけるのは子供のためではない、と育児の専門家が考えていたのである。しかし、その考えの実践により死んでしまう子供が目立ちはじめて、上述のサルの研究をはじめとして、疑問が広がり、否定されていった。
そのサルの研究では、赤ちゃんザルが母ザルから離されて、以下の2体の母ザル人形と共に過ごして、行動が観察された。

  • 針金でできているが、胸の部分からミルクを出す母ザル人形
  • ミルクは出さないが、布でできた母ザル人形

赤ちゃんザルは布製母ザル人形と過ごすほうが圧倒的に多かった。布製母ザル人形が赤ちゃんザルに危害を加えると、当然、赤ちゃんザルは布製母ザル人形に近づかなくなる。しかし、危害を加えるのが止むと、必死になって布製母ザル人形の歓心を引こうとする。布製母ザル人形との関係を友達の赤ちゃんザルとの関係よりも優先する。

愛着障害児の子育て

次に、アメリカで養子になるまで、7歳までルーマニアの孤児院で育ったダニエルが養親を受け入れるまでの話が紹介された。
養子になってしばらくして、ダニエルは頻繁に癇癪を起こすようになった。養親を憎むようになり、危害を加えるようになった。手当たり次第に物を投げつける。しかたがなく養親はダニエルの部屋からベッド以外のものをすべての除いてしまう。
乳児期に濃密な親子の接触を経験しなかったダニエルは愛着障害(attachment disorder)となっていたのだ。愛着障害を持つ人は人に同情することができない。人を傷つけることを厭わない。
専門家の指導の下、8自宅治療が実施された。養母は仕事を止め、ダニエルは学校に行かず、8週間の間、以下をおこなった。

  • ダニエルと養母は常に3フィート(約1メートル)以上離れないで過ごす。
  • ダニエルは養母の話を聞く際にかならず養母の目を見なければならない。目を合わせるまで養母は次の行動に移らない。
  • ダニエルは自分から要求をすることはできない。要求をしなくても満たしてもらえるという信頼の情を培うためである。
  • 治療に従わない場合は罰が与えられる。その罰とは、養母に抱きしめられることである。ダニエルは抱きしめられるのが嫌いだったので、これが罰になった。

この治療により、養親を憎むことはなくなり、癇癪も起こさなくなった。しかし今度は盗みを働くようになった。盗みは徐々にエスカレートていった。そのため、次の治療が施されることになった。それは、1年間毎晩20分間、赤ん坊に母親がするように、養母がダニエルを抱きしめて目を合わせて話をするという療法である。この治療により徐々に症状は改善され、1年後には完全に愛着障害から脱した。

自閉症児の子育て

最後に自閉症(autism)の子供の子育てが紹介された。自閉症の症状は様々でそれに応じて治療も様々なので、自閉症児一般についてではなく、あくまで一例ということである。
ベンは2歳のときに自閉症と診断された。ベンは日常的に以下のようなことをする。

  • 朝食シリアルを床にばらまく
  • 走行中の車のドアを開ける
  • 車が走る道路を渡る
  • 自動ドアに体をぶつける

ベンの両親は毎日のように、普通の親であれば子育ての悪夢として一生忘れないような経験をしている。たとえば、先日ベンはおもちゃ屋で大便を漏らした。母親はトイレへ連れ込んだが、ベンはパンツをはくのをいやがり、しばらく泣き叫びつつ格闘した。別の女性がトイレに入ってきて、トイレから出ろと言う。それにむっとしつつ、パンツもズボンもはかせないままトイレを出た。そしてベンはもっとおもちゃを見たがった。
ベンが9歳のときに初めて施設への入所を薦められた。自分たちの苦労が尋常ではないことが確認されたのであり、安堵感を抱いた。しかし、入所させることはベンを見捨てるようでとても受け入れられなかった。
しかし年を追うごとにベンの行動はエスカレートしていった。一対一で刺激を与えるようにあらん限りを尽くしたが、十分な効果は得られなかった。

  • いっしょに座ってテレビを見たり本を読んでいたかと思うと、親に対して、深く爪で引っかいたり、肘で胸を強打したり、顔面をこぶしで殴ったりする。
  • 6年生の時点で身長6フィート(183cm)、体重250ポンド(113kg)で、母親より大きく、物理的に手に負えなくなりつつある。
  • ベンが寝ている間だけは親はベンの世話をしなくて済む。母親はベンが生まれてから夜中に起こされない日は1日もなかった。ベンが寝付く時刻は遅くなっていった。
  • 夏休み中は最悪だ。ベンは退屈するので癇癪がひどくなる。昼間に足りない睡眠を補うこともできない。

家族による世話は限界に達していた。そして、ベンにとっても幸福でないように思われた。そして、ベンは13歳のある日、施設に入所した。先日、一時帰宅をした。ベンは施設がとても気に入っていた。

MP3ファイルの入手

少し前までは同番組はポッドキャストを提供していて、MP3ファイルは普通に無料で入手できた。しかし、現在はなくなってしまい、番組をダウンロードするにはAudible.comで購入する必要がある。
しかし、今のところLinuxCygwinMac OS Xなどのコマンド行で、以下を実行すればMP3ファイルをダウンロードすることができる。

curl -O http://wbez-tal.streamguys.us:8000/content/317.mp3

wgetコマンドではだめだった。curl以外でもHTTPを扱うプログラムであればダウンロードできる可能性はある。HTTPの応答を見てみると応答行とヘッダーが以下のようになっている。

ICY 200 OK
icy-notice1:<BR>This stream requires <a href="http://www.winamp.com/">Winamp</a><BR>
icy-notice2:SHOUTcast Distributed Network Audio Server/win32 v1.9.5<BR>
icy-name:N/A - 317.mp3
icy-genre:N/A
icy-url:http://www.shoutcast.com
icy-pub:0

応答行が普通のHTTP応答とは違うので、ウェブブラウザーwgetコマンドも処理を中止してしまうのである。

2006-10-25追記

今日This American Lifeのウェブサイトを見たら、ポッドキャストRSS配信があった。http://www.thisamericanlife.org/podcast.xml である。10月13日にはじまったようだ。