A New Kind of Science

IT Conversationsで配信されている表題の講演を聞いた。スティーブン・ウルフラム(Stephen Wolfram)という科学者による同名の著書に関しての講演で、深遠な内容だった。2003年2月におこなわれた講演で、たまたま先週IT Conversationsの「Pick of the Week」になっていたので聞いたのである。十分に理解するには以下の用語・概念を聞きかじりでもいいので知っている必要があり、やや敷居が高いが、がんばって聞く価値がある講演だと思う。

講演の概要は以下の通り。

ウルフラムはまず、幾つかのセルラーオートマトンが、至極単純であるにもかかわらず非常に複雑な挙動を示すことに注目した。その挙動は数学的にランダムであり、実際に実行してみる以外に将来を予測できないことが分かった。

そして自然界に目を向けると、ある種の貝*1に見られる複雑な模様がセルラーオートマトンによるパターンと同じであることが分かった。つまり、貝殻が形作られる過程で色素細胞の生成がセルラーオートマトン的におこなわれたのである。貝には種類によって単純な模様のものもあれば複雑な模様のものもある。それらはいずれもセルラーオートマトンの挙動に対応付けすることができる。

ウルフラムは更に自然界のすべてのものごとは計算(computation)と見なすことができるのではないかと考えた。そして彼は宇宙全体をネットワークと見なす。Sun MicrosystemsのスローガンNetwork is the ComputerをもじってNetwork is the Universeと言ってもいい。

もちろん宇宙はセルラーオートマトンのように升目で区切られた白黒ではない。しかし物質は連続的かというとそうではなく、中間子やクォークといった微細なレベルでは離散的である。

また、セルラーオートマトンではすべてのセルの変化が同時に起こるが、宇宙ではそんなことはない。それについて彼は変化は1箇所で起こり、それがネットワークを通じて伝わると考える。そうすると、様々な過去や様々な未来が考えられることになるように思えるが、現象=計算にチャーチ・ロッサ性があれば一定の結果が得られる。

宇宙をこのようなネットワークと考えると相対性理論が導出される。

一般に計算には理論的に単純化の限界がある。あるセルラーオートマトンのnステップ先の状態を知るにはnステップ実行するしかない。複雑な自然現象も実は単純な計算から構成されるのかも知れないが、その計算が単純であったとしてもたぶん実際に実行するしか将来の状態を知ることができない。シミュレーションは便方ではなく必然であるのではないか。

*1:講演ではmollusk shellと言っている。