Fighting Outbreaks and Bioterrorism

IT Conversationsで表題の解説を聞いた。Biotechnationというラジオ番組からである。西ナイルウイルスをはじめとする新しい病原体の現状と、それに対処することを目指して構築されつつあるSYRISという医療情報システムについてのインタビューである。インタビューを受けていたのは「Microbe: Are We Ready For The Next Plague?」という本の筆者のAlan ZelicoffとMichael Bellomoだ。表題のリンク先でMP3ファイルがダウンロードできる。内容は以下の通りである。私の専門外なので不正確な点があるかも知れない。ご指摘いただければ幸いである。

  • 年間10億人が飛行機に乗る現在では、あらゆる病原体があらゆる場所にあると言ってよい。30年前なら米国内で発生するとは到底考えられなかったような感染症の発生が現在では見られる。
  • 過去15年間に米国内で発生した新種の伝染病はすべて動物原性感染症(zoonotic desease)である。
    • それらの病原体は人間を本来の宿主とはしていないこともあって感染した人を死に至らしめる確率が高い。*1
    • 人間に感染者が出る前に動物に目立った感染が起こって、獣医や動物園の関係者が全米疾病管理センター(CDC)に報告していたが無視されてきた。
    • 西ナイルウイルスは慢性の神経症状を起こすことがあることが分かってきた。急性症状が解消したあと、あるいは感染後急性症状が現れなくても、後になってパーキンソン病や小児麻痺のような慢性の神経症状を引き起こすことがあり、その場合、治療法がない。
    • 生物兵器として使われるのは、天然痘を除いて動物原性感染症の病原体である。
  • 米国の伝染病の報告体制は19世紀的で、基本的に文書が組織階層を上って下りてくるしくみであり、マサシューセッツ州での公衆衛生係官への聞き取り調査によると近くで発生した髄膜炎*2の流行を係官が知るのには発生から1週間かかるとのことである。
    • これでは本来救えるはずの発症前の伝染病感染者や生物兵器に攻撃された人を助けられない。
    • 医師や獣医は忙しくて特異な病気を公衆衛生機関に報告している余裕がない。
    • 検査機関は公衆衛生機関に報告をするが、検査費用がかかるため医師や獣医はめったに検査機関を使わない。
    • また現在の報告体制は病気を特定してから報告することになっており、特異な病気や新たな病気を報告することは難しい。
  • そういった状況を大きく変えるためにSyndrome Reporting Information System (SYRIS。症状報告情報システム)を構築している。syndromeは複数の症状(symptom)から構成される。
    • SYRISは名前が示す通り症状を報告するしくみであり、報告者は病気を特定する必要はない。
    • SYRISには獣医と医師両方が参加する。新しい伝染病がまず動物で起こっているから。
    • SYRISは獣医や医師は日々の診断に役立つようにもできている。
    • SYRISにより生物テロによる死者を大きく減らすことができる。生物テロでは免疫不全の人あるいは大量に病原体を摂取した人が、少数だがテロ発生後1日2日のうちに発症するする。それを把握できれば、迅速なワクチン投与により大多数の人の命を救うことができる。
    • テキサス州西部での同様のシステムでは非常にいい成績を収めている。
  • DNAワクチンにより、新たなウイルスにも迅速に対応できる時代になった。
    • 従来のワクチンではウイルスを沢山作って、それをもとにワクチンを作っていた。
    • DNAワクチンとは、ウイルスからDNAを取り出してある程度ばらばらにした上でDNA自体を複製して作る。ウイルスを大量に作るよりDNAを複製するほうがずっと容易である。
    • 肝炎ワクチンとして既に使われている。

2005-09-11追記

医学の研究者である友人に聞いたところ、DNAワクチンについては「研究はされているけど実用になるのかなあ」と言っていた。

*1:本来の宿主を殺してしまっては多くの宿主に感染することができず広がれない。

*2:meningitis。私は日本で髄膜炎が流行したという話を聞いたことはないのだが、番組中では幼稚園から大学の寮に至るまで学校で流行することがしばしばあると言っていた。