途上国への情報技術の普及についてのパネル討論

IT Conversationsで表題の内容のパネル討論を聞いた。今まで聞いたパネル討論の中で最高のものだった。英語も比較的分かりやすいのでお勧めである。表題のリンク先でMP3ファイルのダウンロードができる。

源題はGlobalization of Technology Panel だが、これは内容を的確に表してはいないのでこのエントリの表題は上記のようにした。別の言い方をすれば国と国の間のデジタルデバイドを解消するにはどうするかの討論である。表題のリンク先にいろいろ情報は出ているが、以下は私が聞き取った範囲での内容の紹介で、Webページの情報と重複や食い違いがあるかも知れない。

パネラーとしてはまずマサチューセッツ工科大学メディア研究所代表のニコラス・ネグロポンテ氏が登場する。氏は1台100ドル以下のノートコンピュータを作って途上国の子供の教育に使うというプロジェクトを進めている。学校で各生徒に1台そしてそれを家に持って帰っても使うということで、ノートコンピュータでなければならない。

ノートパソコンの値段の6割は宣伝・流通・管理・利益などである。残りの4割のうちの6割は画面のコストだ。表示面の前面あるいは背面から投影する方式の表示装置が25ドルでできる。そしてパソコンの処理能力の半分はソフトウェアの贅肉に使われている。こういった余分なコストを削ることとスケールメリットとで1台100ドル以下を実現する。2006年に600万台配布する計画だ。100ドルノートコンピュータの材料は安くしなければならないが、これくらいの数が見込めればデバイスメーカーもまじめに話に乗ってくる。

100ドルノートコンピュータに先立ってカンボジアの電気も場合によっては道もない村の子供に1人1台ノートコンピュータを配るという活動をしている。学校に発電機と衛星によるインターネット接続を設置して、学校で充電して家で使う。家には電気がないので、ノートコンピュータが一番明るい照明としてありがたがられることもある。子供たちが最初に覚える英語単語は「Google」だ。カンボジア語のコンテンツは質も量も限られているので子供たちは猛スピードで英語を覚えて英語のコンテンツに接している。

次に登場したのはAMD社のイアン・モリス氏だ。氏はPersonal Internet Communicatorと呼ばれる途上国向けのインターネット端末の責任者である。PICはAMDが進めている計画、fifty by fifteen、つまり2015年までに世界人口の50%にインターネットアクセスを提供する、の一環だ。20Gバイトのハードディスクを備えたPICは現在185ドルで販売されている。画面は別売りで250ドル。現在ブラジル、メキシコ、カリブ海諸国、インド、ロシアで販売している。電話回線やDSL回線とセットにして販売されていることもある。昨年カリブ海諸国をハリケーンが襲った後、現地の販売業者が衛星インターネット接続を備えたトラックにPICを積んで被災地域を回った。その際に、フロリダ州に住む親戚とインターネットで連絡を取れてよかったという人が多く居た。インターネット接続はそれ自体、途上国の人にとっても価値がある。

3人目のパネラーはbridges.orgの創始者テレサ・ピーターズ氏だ。氏は南アフリカケープタウンに4年半前から住み、貧困層への情報技術の普及活動をしている。現在、No Impact -- Why technology is not making a difference in the development worldと題する本を執筆中である。そして、貧困層には安く単純で小型の携帯情報機器が必要であるとの持論を展開している。具体的には一般的な電子手帳より少し大きいがノートパソコンよりは小さいものを想定しているようだ。貧困地域にパソコンを持ち込んだ際の最大の懸念は盗難だ。携帯機器であればその心配があまりない。また電力消費も少ないので電気がない地域でも使える。20年前に途上国にこれだけ携帯電話が普及するとは誰も予想しなかった。普及の大きな要因は、小型のものを所有できることがある。そのことから考えて、携帯型の情報機器が望まれていると考えている。

これに対してネグロポンテ氏は、現状のノートパソコンには問題が多いと認めつつも教育のためには携帯機器は不向きで、ノートパソコン程度の画面の大きさが必須であると主張していた。

2005-09-17追記

IT MediaにAMDのPersonal Internet Communicator、パナマ上陸と題するPICに関する記事があった。

パナマのPICは、AMDがCable & Wirelessの現地法人と共同で販売し、インターネットアクセスを増強する。パナマのCable & WirelessはPICとブロードバンドアクセスを組み合わせたFacilNetというバンドルで販売する。価格は非公開。
AMDによれば、パナマのインターネットアクセス普及率は現在6%だという。

PICは通信会社が自社のサービスにバンドルして提供していることがあると聞いていたが、その例である。