スティーブ・ジョブズのスピーチがアエラにも
週刊アエラの2005年9月19日号にもスティーブ・ジョブズのスタンフォード大学でのスピーチの抄訳が載っていた。iPodの記事の中の囲み記事として。自分の訳を公開している身としてはやはり気になるので読んでみた。
気付いた点:
- インターネット上の他の多くの翻訳と同様にですます調になっている。ガウンの下はジーンズにサンダルという格好でスピーチをおこなったジョブズ氏に、ですます調は似合わないと思うので私の翻訳は、である調にしている。
- 「Stay Hungry. Stay Foolish.」は訳さずにそのままにしてある。なぜ訳さなかったのだろうか。アエラの読者としてはこれが理解できる人を想定しているからなのだろうか。そうだとしても訳せるものは訳すべきだと思うのだが。
- 「私はリード・カレッジに入学して半年後にはドロップアウトし、それから約1年半後に実際に退学しました。」とあるが、この訳はいかがなものか。drop outは中退・退学を意味し、大学の記録上は半年後に退学しているはずである。そして、その後1年半ほどモグリの学生(drop-in)をしていたのである。そもそもアエラ訳では「ドロップアウト」が具体的にどういう意味なのか分からない。
- その他、細かい点を挙げればきりがないが、あと1点だけ。「われわれはアップルが成長するに従い、非常に有能な人物を採用しました。」とあるが、原文では「as Apple grew we hired someone who I thought was very talented to run the company with me」であり、「有能な人物」ではなく「有能だと思った人物」なのである。この違いは大きいのではないか。「有能な人物」なのであればその後アップル社が傾いてジョブズ氏が再び迎え入れられるということは起こらなかったはずであるし。
最初の2つの点は趣味の問題であるが、最後の2つは翻訳の質の問題である。アエラ訳が翻訳物一般の中で特に質が低いということはないだろう。もっともっと質の低い翻訳をプロの翻訳者から受け取ったことが何度もある。正確に訳せていないと、誤解や事故につながることもあるだろうから最低限日本語として意味が通り、間違いはないものであって欲しいのだが。翻訳の質の底上げはできないものなのだろうか。現状は「市場」が求める正確さと費用のバランスの結果だから、それを変えなければならないのだろうが。