医食同源の科学的検証

食生活を改善することで、病気を避けることはもとより、病気の進行を食い止め、更に病気を治すこともできる。コーネル大学教授で菜食主義者で、米国政府の栄養政策にも長年関わっているのコリン・キャンベルがその科学的根拠を講演で述べている。IT Conversationsでその講演が配信されており、ここで聞ける。講演最後で述べている中国での調査についてはキャンベルがこのページで紹介している。
酪農家の家で育ったキャンベルは動物性タンパク質が最も優れた栄養素だと考え、最初は牛の効率的な肥育方法を研究していた。しかし研究を続けるうちに植物主体の食生活により健康が維持・増進されることが科学的に検証でき、現在では菜食主義者となっている。講演の中で印象に残った点は以下の通りである。

  • 以下の食生活を推奨する。これは子供を含めて年齢を問わず適用でき、一流スポーツ選手の体を支えることもできる。
    • 様々な野菜・果物・穀物の全体を摂取する。穀物の場合は白米や精白小麦ではなく、玄米、全粒粉である。
    • 加工食品や動物性食品、特に乳製品を避ける。
    • 脂肪・油・砂糖・塩・精白小麦粉が加わった食品を避ける。
    • 水を飲む。
    • 特定の物質が含まれているか否かといった細かい点を気にするのを止める。
  • 栄養について、細かな成分に分けて、特定の物質の効能や害を考える還元主義(reductionism)が蔓延しているが、それは間違っている。食物全体・食生活全体を考えるべきである。
  • 害を及ぼす遺伝子の働きを食生活によって抑えることができる。害を及ぼす遺伝子があっても、それが働かなければ問題はない。
  • フィリピンで子供の栄養状態改善の国家プロジェクトに関わった際に、動物性タンパク質を多く摂取した子供にガンの発症が多く見られた。
  • ラットによる動物実験で、発ガン物質によって肝臓ガンを起こし、腫瘍の成長と餌の内容との関係を調べた。通常の餌であるカロリーの20%がタンパク質の場合、腫瘍の拡大が見られた。一方、タンパク質の割合を10%以下にしたところ、腫瘍の拡大速度が遅くなった。別の実験で通常の餌を与え続けた場合と低タンパクの餌を与え続けた場合で生涯の健康状態の比較をしたところ、低タンパクの餌のラットのほうが健康状態が目立ってよく、ガンの発症もなかった。
  • あとで気がついたのだが、上記の実験で与えられたタンパク質はカゼイン(casein)だった。牛乳のタンパク質の87%はカゼインである。カゼインを大豆のタンパク質や小麦のタンパク質で置き換えたところ、カゼインを減らした場合と同様の効果があった。
  • タンパク質は重要だが、カロリーの10%をタンパク質で摂取すれば十分である。これはラットでも人間でも同じで、1940年代に確立されている。
  • 中国では地域によってガンの種類や発症の割合が大きく異なる。中国本土と台湾の170の地域の食生活とガンなどの病気の発症との関係を調べる調査をおこなった。動物性の食品の摂取とそれらの病気の発症には相関が見られた。動物性食品をほとんど摂らない地域ではそれらの病気が非常に少なかった。
  • 研究の結果、栄養補助食品にはどれも効果がないことが分かっている。

2006-05-23追記

言うまでもないかも知れないが、栄養補助食品に効果がないというのは栄養学者の共通認識にはなっていない。むしろ、多くの栄養学者はビタミン剤の服用を推奨しているように思える。5月18日に、NPRのMorning Editionで放送された「Tailored Vitamins Better than Multivitamins」と題する部分では、以下のように述べていた。

米国国立衛生研究所(NIH)に今週はじめに集まった栄養の専門家は、総合ビタミン剤を毎日服用することが慢性病の発生を押さえるとする科学的根拠は乏しいという点では一致した。どのようなビタミン剤を組み合わせて服用すべきかは専門家によって意見が分かれている。