被害をもたらす隕石を見つける宇宙望遠鏡を打ち上げる民間の計画

2013年2月にロシアで隕石が落下して被害が出た。これは不測の事態だった。6500万年前に落下した隕石の被害はけた違いで、恐竜など多くの生物を絶滅させた。同等の隕石が今落下すれば人類は滅亡を免れない。しかしそのような隕石を見つける手段が今はない。
こういう状況を変えようと元宇宙飛行士のエディ・ルー氏が民間事業として専用の宇宙望遠鏡を打ち上げる計画を2年前から進めている。米国ロングナウ財団が2013年6月18日にサンフランシスコで開催したセミナーで、ルー氏が講演した。リンク先でセミナーの音声(英語)を聞くことができる。以下はその概要である。

  • 月のクレーターは隕石の衝突によるもので、その規模・数を見れば、地球への隕石落下の規模・頻度を見積もることができる。
  • 今後100年間に地球の大都市を壊滅させるほどの威力のある隕石が地球のどこかに落下する確率は30%である。前回の被害は、1908年にロシアで起こり、直径40mの隕石が、サンフランシスコ・ベイエリアほどの面積を壊滅させた。
  • 球場に幾つか収まるほどの大きさの隕石は100メガトンの爆薬と同程度の威力がある。それは第二次世界大戦で使われた弾薬の総量(原子爆弾も含めて)の5倍である。その大きさの隕石が100年以内に地球に落下する確率は1%である。
  • 直径1kmになると、威力は40ギガトンで、確率は0.001%。これは6500万年前に落下したものと同等である。
  • 地球付近の軌道にある小惑星は1万個知られている。それに対して直径30m以上の小惑星で地球付近の起動にあるものの数は100万個と見積もられている。その僅か1%しか知られていない。
  • 隕石による被害を防ぐのに必要なことは、まず被害をもたらす隕石となる小惑星を見つけ、それをそらすことである。
  • そらすことは実は難しくない。地球は時速10万kmで太陽を回る軌道を移動しており、1年間に10億km移動する。10年間だと100億kmとなる。地球の直径は1万3000kmで、直径分の距離 公転軌道を移動するのに要する時間は7分半である。したがって衝突を回避するためには、小惑星が地球軌道を通過するのを3分早めるか、3分遅らせればよい。衝突するのが10年後であれば、小惑星に与える必要のある速度の変化は秒速1mmである。これは、宇宙船を衝突させたり、近傍に留まらせて重力を与え続けることで達成できる。
  • 問題はどうやって見つけるかで、地球軌道付近の全小惑星のうち1%しか把握されておらず、現在の観測体制では残る99%を見つけられるみこみはない。そして、どの国の政府もその観測に必要な衛星を打ち上げる予定はない。
  • 2年前にGoogleで講演をした。講演が終わったあと、ある人が話しかけてきた。「やればいいじゃないですか」と。私は面食らって聞いた。「どういう意味ですか。総額で数百億円かかかるんですよ」と。「やればいいじゃないですか。私はサンフランシスコ近代美術館の拡張計画のために400億円市民から集めましたよ」。アメリカ全体では常に何百もの数百億円規模の事業が寄付によって支えられて動いている。私は決意した。
  • 観測に使うのは宇宙赤外線望遠鏡で、センチネル(Sentinel, 斥候)と名付けられている。2018年に打ち上げ予定で、金星の軌道付近に投入される。6年半で地球軌道付近の小惑星をすべてみつける。
  • 小惑星は光をあまり反射せず、可視光による観測は難しいので、赤外線での観測となる。地球軌道付近を太陽にじゃまされずに観測するには、地球より内側の軌道で、太陽の陰に入った状態で観測する必要があり、金星の陰で観測する。
  • 地球に衝突する小惑星が特定できれば、それをそらすた対策は国家予算で行えるはずである。具体的な危機が迫っているのであるから。そして、そういう小惑星が見つかる確率は低くない。大規模な被害をもたらす隕石が100年以内に落ちる確率は30%なのだから。
  • 一方で、地球に衝突する小惑星を見つける活動に税金を投入するのは難しい。具体的な危機はないのだから。