iPadは組織内で使われるパソコンを置き換えてしまうかも知れない

以前ツイッター(@himazu)でも少し書いたのですが、もうちょっとまとめて書きます。
近い将来iPad的機器が組織内のパソコンを置き換えてしまうのではないかと私は思うに至りました。将来に渡って機器上で処理を行なうアプリケーション(ネイティブアプリ)が使われ続けるのか、ウェブアプリばかりになってしまうのか、どちらにしても、組織内で従来のパソコンからiPad的機器への移行は起こってしまうのではないかと思います。
iPadに限らず同様の性質のものであればいいので、「iPad的機器」という言い方を直前の段落ではしています。一方、現状では十分に近いものはないので以下では主にiPadについて論じ、最後にiPad以外の可能性についても少し考えます。

組織内App Store

私が表題のように考えるに至ったきっかけの一つに、以下のことがあります。「iOS Developer Enterprise Program」を使えば現在でも組織内App Storeを設けることができます。「組織内App Store」と言っても実体は普通のウェブサイトで、アプリケーションのファイルが置かれるだけです。そこに置くアプリケーションはAppleを通さずに、どのiOS機器にもインストール可能なように組織内でプロビジョニングできます。iOS機器からSafariブラウザーで組織内App Storeにアクセスして組織内アプリをインストールできます。そうやってインストールしたアプリはiPadiTunesと同期した際にiTunesにはコピーされません。したがって個人所有のiPadを仕事に使っても組織内アプリがiTunesを通じて家庭内に広がってしまうことはありません。
組織内で使うアプリケーションがウェブアプリばかりであれば、組織内App Storeは不要かも知れません。ウェブアプリばかりであっても、データがアプリ外に出ないようにし、特別なユーザー認証の仕組みやjailbreak検出機能を備えた組織内用ウェブブラウザーを用意し、組織内App Storeで提供する、という運用も考えられます。また、将来的にはともかく現状ではネイティブアプリとするのが適切なアプリケーションもあるでしょう。それらを考え合わせると、組織内App Storeが比較的簡単に作れるのは、iPadの組織内利用にとって大きなプラスだと思います。

iPadへの移行の動機付け

個々のユーザーが行なうにしろ、IT部門が行なうにしろ、パソコンの導入や維持、管理には手間がかかります。組織内アプリケーションの開発やテスト、導入、維持にも手間がかかります。iPadは原理的にそれらの手間が少なく済みます。また、iPadはパソコンに比べて原理的にセキュリティーが高く、同程度のセキュリティーを確保するための手間や費用がパソコンより少なく済みます。管理が楽で、費用が少なく済むことがiPadへの移行を引き起こすと私は考えています。
組織内のユーザーは利用するのがウェブアプリであれネイティブアプリであれ、何らかの機器を用いてそのアプリケーションを使わなければなりません。したがって、用いられるアプリケーションの形式を問わずiPadは望ましいのです。

iPadの管理コストが低い理由

iPadの管理コストがパソコンより低くなる理由は、iPadはパソコンよりずっと制限されていることにあります。その制限とは、まず、各アプリケーションは完全に独立していて、複数のアプリケーションが同じファイルにアクセスすることもできないこと。また、OSにドライバーやライブラリーなど複数のアプリケーションで共通に使われるものをインストールできないことです。そして現在ではそれらの制限は問題とはなりません。ファイルやデータにはネットワーク経由でアクセスすればいいですし、必要なライブラリーは各アプリケーションに含めればいいからです。

脱獄禁止

iPadにメリットをもたらしているのが「制限された環境」である以上、それを壊してしまう脱獄(jailbreak)は禁止する必要があります。ちゃんとした管理ができなくなりますし、セキュリティーも甘くなってしまいますから。規則として禁止するだけではなく、脱獄を定期的にチェックして検出された場合は強制的に使用停止にする仕組みが必要でしょう。

iPad以外では?

ここまで書いて来たことはiPadにしかできないわけではなく、十分に制限された機器であれば実現できます。AndroidでもWindows Phoneでも、あるいはOS XでもWindows 8でもそうすることはできると思いますが、現状ではiPadしかありません。他のプラットフォームは十分に制限されていないか、まだ発展途上だからです。

iPadの課題

iPadであっても現状では組織で大規模にアプリケーションのプラットフォームとして使うのに十分ではありません。多数のiOS機器を効率よく管理する仕組みはまだないでしょう。個々の機器をモニタリングする必要もあるでしょう。そもそも9.7インチ1024x768ドットの画面では不十分なアプリケーションはたくさんあります。組織内のパソコンを置き換えるべく、それらの点でiPadは進化するでしょう。
より基本的な問題としてiOSアプリの堅牢性があります。少なくとも初代iPad上ではブラウザーコンポーネントを使ったアプリやSafariはよく異常終了します。主記憶が十分でないことが原因のようで、ブラウザーコンポーネントを使っていなくても主記憶を多く使うアプリケーションでは同様のようです。組織内向けアプリケーションをウェブアプリとして実装することは多いでしょうから、これは致命的とも言える問題です。OSとアプリケーションの両面からiOSアプリの堅牢性を高める取り組みがなされないと、他の十分に制限されたプラットフォームが堅牢なウェブブラウザーを提供するだけでもiPadが組織内に浸透することがより難しくなります。
iPadの文字入力も改善される必要があります。このブログエントリーは初代iPad上でワイヤレスキーボードを使って書いているのですが、予測変換で入力していない文字まで入力されてしまい、修正しなければならないことがしばしばあります。予測変換はiPhoneでソフトキーボードで入力しているときは利点が多いでしょうが、ブラインドタッチでキーボードから入力しているときは邪魔になることもあります。予測変換を停止することができればいいのですができません。カタカナ変換機能がないこともかなり不便です。更に、かな漢字変換の処理の優先順位が十分に高くないせいか、文字は入力されているのに、変換候補がちゃんと入力を反映しないことがあります。たとえば「そしきむけ」との入力に対して「組織無け」が変換候補になってしまい、deleteキーで「け」を削除して再び「け」を入力すると「組織向け」が変換候補になる、などです。
その他の観点として、Appleが組織内へのiPadの浸透にどれくらい本気を出すのかということもあります。Microsoftは組織向け商売がかなりの比重を占め、体質として、組織向け商売をちゃんとやっていると感じます。そして、その市場を守るために必死に「十分に制限された管理の楽なプラットフォーム」へのシフトとを行なうのではないかと思います。それに対抗するにはAppleは本気にならなければなりません。

おわりに

組織内で使われるパソコン的な機器が現在のようなパソコンからiPad的機器、つまり十分に制限された機器に変わっていくのは必然だと感じます。それがiOSになるのか、OS Xか、Windows 8か、Androidか、まだ決まってはいませんし、いずれにもまだチャンスはあると思います。