Can't Remember What I Forgot/私が何を忘れたか、思い出せない

Can't Remember What I Forgot: Your Memory, Your Mind, Your Future

Can't Remember What I Forgot: Your Memory, Your Mind, Your Future

私が何を忘れたか、思い出せない―消されゆく記憶

私が何を忘れたか、思い出せない―消されゆく記憶

この本は記憶と痴呆に関する科学ルポルタージュである。筆者がラジオ番組(どの番組だったか探したが分からなかった)に出演しているのを聞いて面白そうだったのでAmazon.comで原書の電子版を買ってKindle for iPhoneで読んだ *1。以前読んで本ブログで紹介したCarved in Sand(邦訳 記憶力を伸ばしたい!)と似ているが、「Can't Forget...」は脳科学者への突っ込んだ取材が主で記憶力強化の体験報告はまったくない。Making a Good Brain Great(これも以前、本ブログで触れている)を含めて記憶/脳関係の本は3冊目ということになる。振り返ってみると、以前読んだ2冊は読まなくても良かったと思う。そして、この本の核心は以下の通り。

  • 加齢による記憶力の低下と、アルツハイマー病は脳内の別の場所で起こっていて、メカニズムも違う。分子レベルでのメカニズムも解明されつつある。
  • 加齢による記憶力の低下は、海馬(hippocampus)にある歯状回(dentate gyrus)で起こっていていると考えられる。そこでは神経細胞新生が起こっている。そして歯状回ではRBAP48というタンパク質がタンパク合成を制御していて、加齢とともにRBAP48の生成は低下する。同時に、加齢により歯状回での神経細胞新生が低下することも分かっている。しかし、RBAP48が神経細胞新生に関わっているとはまだ確認されていない。
  • 有酸素運動は歯状回で神経細胞新生を促すことが確かめられており、また、有酸素運動は人間の記憶力を高めることも確かめられている。
  • 薬剤で人間以外の動物の記憶力を高めることはできているが、人間の記憶力を高めると確認されている薬剤はない。
  • アルツハイマー病は海馬傍回(parahippocampal gyrus)の嗅内皮質(entorhinal cortex)でレトロマー(retromer)という物質が阻害されることで起こっていると考えられる。ハツカネズミのレトロマーを阻害することでアルツハイマー病と同様の状態を起こせることは確認されている。しかし、レトロマーが働くようにしてアルツハイマー病を治療することはまだできていない。
  • これらのことの解明にコロンビア大学のスコット・スモール(Scott Small)が率いる研究チームが多大な貢献をしている。スモールは分子、細胞、脳組織、臨床すべてのレベルを考慮することで大きな成果を上げることができた。

筆者は執筆の過程で加齢による記憶力低下とアルツハイマー病が克服される日が近いと感じるに至り、そう番組の中で述べていた。

*1:今はもう普通に買えるかも知れないが、以前はちょっと工夫が必要だった。