あらゆる活動に関するイノベーションの手引き書
Innovation: The Five Disciplines for Creating What Customers Want
- 作者: Curtis R. Carlson,William W. Wilmot
- 出版社/メーカー: Crown Business
- 発売日: 2006/08/08
- メディア: ハードカバー
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個人の活動から、小さなチーム、果ては会社全体にも適用できる手引書である。筆者の一人は先端技術によるイノベーションをいくつも成功に導いていて、実例もそれに沿ったものであり、技術系の仕事をしている人には特に説得力があると思う。
イノベーションとは
本書ではまず、イノベーションをこう定義する。
イノベーションとは市場において新たな顧客価値を創造し提供する過程である。
(Innovation is the process of creating and delivering new customer value in the marketplace.)
この本の定義では、実際に新たな価値を顧客に届けてはじめてイノベーションと呼べるのであって、新たな技術を開発しただけではイノベーションとは呼ばない。
そして、あらゆる組織で働くすべての人がこの意味でのイノベーションを起こすことができると説く。すべての仕事には顧客が存在するからである。会社の人事・経理は社内の「顧客」に対して仕事をしているし、慈善団体の「顧客」は助力を与える対象となる人々であり、また、支援者も「顧客」と言える。
顧客価値とは
その上で、顧客価値(Customer Value) を効用(Benefits)からコスト(Costs)から差し引いたものと定義する。式で書けば:
顧客価値=効用−コスト
いくら機能・効果・効用があってもそのコストが高ければ価値が高いとは言えない。
5つの規律
そして、イノベーションを成功に導く5つの規律(Five Disciplines of Innovation)を挙げる。この本全体がこれら5つを順に説明する形になっている。
- 重要なニーズ(Important Needs)――興味深いニーズではなく、重要なニーズに傾注しなければならない
- 価値の創造(Value Creation)――どのニーズをいかに満たすかの青写真を練り上げる
- イノベーションの主導者(Innovation Champions)――イノベーションに傾注し、チームをまとめ、責任を持ち、説得力のある青写真を作り、粘り強く取り組む主導者が必要である。そしてチームの個々のメンバーは自分の担当部分については主導者でなければならない
- イノベーション・チーム(Innovation Teams)――チーム作りと運営
- 組織との調和(Organizational Alignment)――イノベーションを組織の中でどうやって始め、組織と調和させつつ進めるか
このなかの1つでも欠けると失敗の可能性が高まり、すべてそろっていればかなり高い確率で成功すると説く。
イノベーションの青写真
上記の5つの規律の中で、最も多くの紙面が割かれているのは、2番目の青写真(Value Proposition)作りである。青写真は以下のNABCから構成されるべきであるとしている。
- ニーズ(Need)
- アプローチ(Approach)
- 費用対効果(Benefit per Costs)
- 競争相手・代替案との比較(Competition and Alternatives)
青写真は簡潔で、非専門家にも理解できるものでなければならない。
大きなイノベーションでは、青写真作りに1年以上を要することもある。それを練り上げるための手法として、「ウォータリング・ホール」(Watering Hole=社交サロン)を提案している。そこでは、さまざまな分野・部署の人が一同に会し、イノベーションの主導者が青写真の案を披露してフィードバックをもらう。青写真が最初から出来が良いことはなく、何度もウォータリング・ホールを繰り返すことで完成させる。
NABCの考え方はイノベーションの青写真作りだけでなく、個人が仕事をいかに進めるかや、キャリアを考える上でも使えそうだ。