世界人口は21世紀中に減少に転じ世界全体が高齢化する

少子高齢化は日本の課題である。先進国の多くがかかえている問題でもある。実は先進国に限らずほとんどの国が少子高齢化への道を歩んでおり、世界全体が高齢化社会に向かっていることを、2004年8月13日におこなわれたセミナーの音声と資料で知った。音声は以下で入手できる。
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講演のスライドはここにある。そして、講演全体を文書にしたものがここにある。スライドをすべて含んでいるので、その文書を読めば講演の内容全体がわかる。
その講演はロング・ナウ財団(Long Now Foundation)が月に1回開催している「長期的思考に関するセミナー」(Seminar About Long-term Thinking: SALT)の1つである。講演のポッドキャストのURLはこれである。
講演の中で印象に残った点は以下の通りである。

  • 1970年代に人口爆発が社会問題となった。現在でも世界の人口は増加しているが、増加率は年々低下している。
  • 人口問題の専門家の予想では世界の人口は70億人から90億人で頭打ちとなり、その後減少に転じ、世界全体が高齢化社会になる。
  • 産業国では人口を維持するのに必要な出生率は2.1である。
  • 世界の人口の半分は人口を維持できる出生率を下回る国に住んでいる。上回っているのは南アジア、中近東、アフリカ、中南米のいくつかの国々である。エイズの蔓延を考慮するとサハラ砂漠以南のアフリカの国々の多くの出生率は人口を維持できるレベルより低い。
  • 現在、出生率が高い国でも出生率は急速に低下している。
  • 出生率が低下しはじめた当初は、労働人口1人当たり支えなければならない非労働人口が少なくなり経済成長をもたらす。1960年70年代の日本やアジア諸国の経済成長がそれである。しかし、出生率が人口を維持できるレベルより下がると経済を低迷させる。
  • 日本の出生率は1950年代以降2.1を下回っている*1。日本の長期景気低迷が始まったバブル崩壊の年は、総人口に占める労働人口の割合が減少に転じた時期と一致する。
  • 中国では2020年以降、労働人口が絶対数で減少する。2030年から2050年の間に人口が5000万人減少する。
  • 今後も世界の人口は増えるが、それに寄与するのは高齢者で、子供の数は減り続けている。
  • 高齢者1人当たりに要する費用は子供の数倍となり、社会的負担が大きい。高齢者に要する医療費は年齢が高くなるほど多い。
  • 少子高齢化労働人口1人が支える非労働人口を増やすことになる。
  • 社会の高齢化は活力をそぐ。社会全体の平均年齢が低いインドと中国は起業精神が旺盛だが、高齢化しているフランスと日本は起業精神が薄弱である。
  • 平均寿命の延びに大きく寄与しているのは乳幼児死亡率の低下であり、高齢者が元気で長生きしていることを必ずしも意味しない。米国では65歳の人の平均余命は1990年代に短くなっている。
  • 出生率低下は産業社会の帰結である。
    • 労働が高度化し、労働力となるためには高等教育が必要で、更に、就業後もすぐには十分な生産性を上げられず、十分な所得を得られない。キャリアが安定してから子供をもうけると、望む数の子供を生むことができないことが多い。
    • 子育てにはお金がかかる。米国では子供が18歳になるまでに要する費用は20万ドルで、それには大学の費用を含まない。
    • 更に子育てのために職を離れることによる機会の喪失を金額に換算すると100万ドル以上になる。
    • しかし、税金や社会保障の点で子供を持つことによる優遇はない。
    • スエーデンは子育てに対して手厚い保護を与えていて、ある程度出生率は上がったが、人口を維持できるレベルには達していない。

*1:筆者註:1957年に2.1を下回ったあと1964年までその状態が続いている。しかし1965年から1973年までは2.1を上回っている。ただし、1966年は丙午のため1.58と低かった。