特殊な鍵を挿してたたくだけのピッキング「鍵たたき開錠」

概要

熟練を要せず、特殊な鍵を鍵穴に挿し、それをドライバーの取っ手などでたたいて、数秒で鍵を開けてしまう「鍵たたき開錠」とでも言うべき手法がある。その手法について警告を発しているグループ(後述のToool)によれば、従来から安全性が低いとされている種類の鍵だけでなく、ディンブル鍵などの安全性が高いとされている鍵にも適用できるとのことである。更に、この手法は高価な鍵に対してのほうが安価な鍵に対してより有効なことが多いそうだ。高価な鍵は加工精度が高く、それのために、この手法に弱くなってしまっていると言う。この手法では開けられない鍵も存在するが、まだ少ないようだ。

手法の名前

この手法は、鍵をたたくことから英語では「lock bumping」あるいは「key bumping」と呼ばれている。日本語では「鍵たたき開錠」と呼ぶのがいいのではないかと思う。そして、この手法で使われる特殊な鍵は「bumpkey」と呼ばれている。このブログ記事の中ではバンプ鍵と呼ぶことにする。

手法のポイント

この手法のポイントは、以下の点である。

  • ディンプル鍵など安全性が高いとされているものを含めて多くの種類の錠前に適用できる
  • この手法で使う特殊な鍵、バンプ鍵を普通の鍵から比較的容易に作ることができる
  • バンプ鍵されあれば、それを使って開錠をおこなうのに熟練を要しない

情報源

鍵たたき開錠について私は最初GIGAZINEで8月7日に紹介されているのを見て知った。2005年4月にオランダのNova TVで、この手法のリポートがあり、最近そのリポートの英語字幕付きのものが、YouTubeで閲覧可能になった。GIGAZINEの記事では、そのYouTubeの映像が見られるようになっている。かなり衝撃的な映像である。その映像へのリンクをこのブログ記事にも載せておこう。これである。
このYouTubeの映像は、ネット記事の推奨サイトdiggでも8月6日に紹介され英語圏でも多くの人の注目を集めている。
Nova TVのリポートではオランダのピッキング愛好家団体Toool(The Open Organization Of Lockpickers)の人が、この手法について解説していた。Tooolは2005年1月付けで、この手法についての報告書「Bumping locks」を公開している。
Nova TVのリポートの放映後、2005年7月にオランダでWhat's the Hackという会合があり、そこで、Tooolの人達がこの手法について講演およびデモをおこなっている。その映像が、ここにある。この中では、Nova TVのリポートも途中で流されており、これを見るならNova TVの映像は見る必要はない。後半は少し間延びした感じだが、全体としては情報量も多く、とても興味深い。この講演について報告したブログ記事が2005年8月にdiggで取り上げられている。

What's the Hackでの講演の内容

講演ではまず、この手法のしくみについて詳しく説明している。Nova TVのリポートで出てきたビリアードの玉の例えは、リポートの中ではあまり意味が分からなかったが、講演でははっきり分かった。
Nova TVのリポートではバンプ鍵さえあれば非常に簡単に実行できるような印象を受けるが、実際には熟練は必要ないものの、ある程度の慣れと知識は必要なようだ。そして開錠に必要なコツは錠前ごとに異なると思われる。
ヤスリを使って、通常の鍵からバンプ鍵を作るデモがおこなわれていた。2つの錠前の鍵について、講演の場でそれぞれ2分ほどヤスリをかけてバンプ鍵にし、鍵たたき開錠ができることを示していた。
鍵たたき開錠がおこなえないとメーカーが主張しTooolがそれを確認した錠前が幾つかある。そのリストはここにある。講演の中では、なぜそれらの錠前が鍵たたき開錠に対して耐性を持つのかの説明もしている。

手法の歴史

Tooolの報告書によれば、鍵たたき開錠には50年以上の歴史があると言う。しかし、最近までは適用できる鍵の種類は多くなく、使うにはある程度の熟練を要した。しかし、最近の改良によりほとんどの種類の鍵に適用できるようになり、また、熟練も必要なくなった。Tooolのメンバーは現在の形の手法を2004年にドイツのピッキング愛好家から知ったそうだ。

バンプ鍵の制作・入手

バンプ鍵はすべての切り欠きが最大限になっている鍵である。合鍵を作る機械は、鍵の各切り欠きの深さを指定するようになっていて、バンプ鍵を作る際は、すべての切り欠きを最大限に指定する。つまり、合鍵を作る材料と機材があればバンプ鍵が作れるのである。また、すべての鍵はバンプ鍵に「改造」することができる。
ただし、これは従来のバンプ鍵で、これでは開錠できる錠前は限られ、開錠するのに熟練が必要だった。
最近知られるようになった改良とは、バンプ鍵が本来より0.5mmほど(この長さは錠前によって違う)深く挿せるようにすることである。具体的には上記のバンプ鍵の以下の2箇所を0.5mmほどヤスリで削るのである。

  • 先端
  • 錠前に当たってそれ以上深く挿されないようにしている、鍵の「肩」

先に挙げたWhat's the Hackでの講演では、バンプ鍵が動作するしくみや、具体的な作り方が説明されている。Nova TVのリポートではヤスリで削る工程が紹介されていない。たぶんわざと紹介しなかったのだろう。
なお、Nova TVのリポートではバンプ鍵がインターネットで販売されていると報じている。

2007-02-14追記

バンプキーと日本のセキュリティというページに鍵たたき開錠の仕組みが分かりやすく図解されている。ディンプル鍵で鍵たたき開錠ができることを実証した報告も載っている。