米国の刑事裁判の影の部分

米国では重罪(felony)で有罪となった人(convicted)の95%以上が裁判を受けていない。大多数が罪を自ら認めて(take the guilty plea)裁判をすることなく刑罰が確定している。罪人が素直に罪を認めているだけならいいのだが、無実の罪で捕まった人の中に強制的にそう仕向けられている人がいる。米国PBSのドキュメンタリーシリーズFront Lineの「The Plea」と題する回がそれを報告している。リンク先では、この回のWindows MediaとReal Mediaのストリーミングを提供している。私がWindows Mediaのストリーミングを保存する方法はこちらで紹介してある。
多くの場合、逮捕後、検察から、裁判を経ずに済ませるよう提案される。その条件として、裁判で有罪になった場合より軽い量刑が提示される。たとえば裁判で有罪となれば懲役5年以上となるところを、罪を認めれば保護観察処分(probation)といった具合である。米国の刑事裁判のしくみは、検察側も弁護側も大多数の被告が裁判を受けないということを前提にしている。そうしないと文字通り裁ききれない。その結果、検察側も弁護側も被告に対して、裁判をしないことを強く薦める。
それが、無実の罪で捕まった人に対してもなされる。無実の罪でも有罪になる可能性はある。また、裁判が行われるのは逮捕から何ヶ月も先のことで、その間拘留されるのに対して、保護観察処分を受け入れれば直ちに帰宅することができる。そのため、実利を考えて無実でも罪を認めてしまうことが少なからずある。
しかし、保護観察処分でも有罪には変わりがないので、裁判で有罪となった人と同様の扱いとなる。たとえば、貧困者に与えられる食費の補助(food stamp)や、教育費の補助が受けられなくなる。保護観察を受けている人には罰金が課せられて、保護観察期間中は払い続けなければならない。そういったことをちゃんと知らされないまま、裁判をしないことを選んでしまうことがある。一旦自ら罪を認めてしまうと、逮捕の元になった証拠が無効だと分かっても有罪が無罪になることはない。
以上は番組の冒頭部分の内容で、番組が進むにつれて幾つかの事例が紹介され、法曹関係者の証言が紹介される。

雑感

重い内容だが考えさせられる。完璧な制度などないのだし、現在の米国の刑事司法制度で不幸になっている人の割合がどれくらいなのかはわからない。また、日本の事情を私は知らないので、比較することもできないのだが。

単語帳(登場順序ではない)

bond: bail bond=保釈金を払った結果受け取る保釈証書の意味で使われていると思われる。
DA: District Attorney 地区検
destitute: 極貧
parole: 仮釈放
clemency: 寛容な行為, ここでは恩赦を表していると思われる
exonerate: (告訴・義務などから)解放する
mutilate: (論文などを)骨抜きにする
exculpatory: (形容詞)無実の罪を晴らす