自分の能力を固定的に考える人と成長し続けると考える人

人間は2つのタイプに分けられるという。自分の能力は固定して変わらないと考える人(fixed mindset=固定思考)と、ずっと成長し続けると考える人(growth mindset=成長思考)である。スタンフォード大学の心理学の教授で「Mindset -- The New Psychology of Success」の著者のキャロル・ドウェック(Carol Dweck)の発言である。ラジオ番組Tech Nationでのドウェックへのインタビューの最初でそう述べている。リンク先ではインタビューのMP3ファイルがダウンロードできる。このブログ記事はそのインタビューの内容紹介である。
能力を固定的に考えている固定思考の人にとって、人生とは失敗を犯さず、知的に見えるように振る舞い、自我を誇示することを通じて自分の存在を証明することであり、成長は関係がない。成長し続けると考える成長思考の人にとっては、成長こそが人生であり、失敗によって自分の価値が決まってしまうことはないので、失敗を恐れない。
ある人が固定思考・成長思考のどちらを持つかを判断するには次の命題を考えてもらえばよい。「知能は人の土台をなすもので変えることはできない。新しいものごとを覚えることはできるが、賢さを変えることはできない。」これに同意する人は固定思考の持ち主であり、同意しない人は成長思考の持ち主である。
ドウェックはもともとは固定思考を持っていたが、成長思考に改めた。どちらの考え方をするかは人格の基本を成すのではあるが、あくまで考え方であり、変えることはできる。
成長思考の例として、サンフランシスコ・フォーティナイナーズフットボール選手ジム・マーシャル(Jim Marshall)が、ある試合で取った行動が挙げられる。マーシャルは試合の前半で敵方にタッチダウンして点数を与えるという大失態を演じてしまった。しかし、ハーフタイム中に失態を跳ね返す決意をし、試合の後半で選手生活中屈指のすばらしい働きをしチームを勝利に導いた。試合後マーシャルは失態からの立ち直りを助けるための社会活動をするようになった。
固定思考の持ち主は自分に対して甘い評価をする。自分の否定的要因は自尊心に対してマイナスなので無視する。自分より劣った人と比べて自尊心を保つ。その結果、自分自身に対する正しい評価がくだせない。
いっぽう、成長思考の持ち主は自分に対して正確な評価を持つ必要がある。そうでないと、いかにして成長するか正しく定められないからである。自分の足りない点を把握する必要がある。
固定思考・成長思考の研究の中で、子供の褒め方の比較をした。1つのグループの子供達についてはよい結果を出した場合にその結果を褒めた。そうやって褒められた子供は困難に出会うと簡単にあきらめてしまった。固定思考を持ってしまい、成長しようとしなくなってしまった。別のグループの子供たちについては頑張った場合やうまいやり方を考え出した場合に、頑張りややり方を褒めた。そうやって褒められた子供が困難に出会うと、前にもまして頑張ろうとしたり、うまりやり方を考えようとした。成長思考を持つようになったのである。
また別の実験では、算数のテストの前に数学の天才の話を聞かせたグループと、数学が好きになり努力して数学者になった人の話を聞かせたグループとの間でテスト結果を比較した。後者のグループのほうが良い成績を収めた。

2006-03-23追記

固定思考か成長思考かを判断するための質問は実際にどう言っているのだろうと疑問を持っている人がいたので、その部分を書いておく。

Answer these questions about intelligence.
Your intelligence is something very basic about you that you can't really change. You can learn new things. But you can't change how smart you are.
Do you agree with those statements? Do you disagree with those statements? If you agree, that's a fixed mindset. If you disagree, that's a growth mindset.

番組のMP3ファイルの最初から3分15秒の時点での発言である。

2006-03-26追記

成長思考の人は自分に正しい評価を下すということに関して実際にどう言っているのかとの声もあったので、その部分も書いておく。

But in the growth mindset, you need accurate information in order to learn and grow properly.
You need to know if you're bad at this or you're ascending people or you're going down the completely wrong road.
You need to know that now, not 10 years in the future when it's too late.
So you really stay in touch with your liabilities and take steps to remedy them.

開始から10分24秒の部分である。

2006-03-30追記

今週のIT Conversations Newsで、このインタビューは先々週配信された内容の中でリスナーの評価が最も高かった(5が最高で4.4)と発表された。